漁師と漁協の取組

海に生きるということ

大原漁港周辺の海は、寒流(親潮)と暖流(黒潮)が交じり合う豊かな漁場です。この漁場で獲れる魚介類は身が引き締まり、色、艶、大きさ、どれをとっても天下一品。その品質の高さには定評があります。
この地に来て「おいしい、おいしい」とお魚を食べてくれる人たちの笑顔を思い浮かべて、漁師たちは日夜海に繰り出し、漁に励んでいます。

しかし、そんな豊かに見えるいすみの海にも、世界の海と同じように、様々な課題が横たわります。水揚げ量の減少、気候変動や海の温暖化による環境破壊、燃料高騰に少子高齢化…など、数え上げれば心配事は尽きません。

「このまま何もしなければ、本当においしいお魚は食べられなくなってしまうかもしれない。」

そんな想いから、いすみの漁業者たちは様々な新しい取り組みにチャレンジすることにしました。それが海に生きる私たちの責務だと思うから…。
これからも海を敬い、海の恵みに感謝して、おいしく安心して食べられるお魚をたくさんの人たちにお届けできるように努力して参ります。

【プロジェクト1】漁協内業務のDX化

夷隅東部漁協では、将来に渡って漁業資源を保全しながら持続可能な漁業を展開するため、水産資源水揚高の「量」に依存した漁業から、鮮度等の付加価値を高め「質」を重視した漁業への変革が不可欠であると考えています。
そこで、漁師・漁協職員・地元仲買人という漁業関係者が一体となり、漁協内業務のDX化を図ることにより、産地漁港としての鮮度管理の強化と、仕入れから出荷までのリードタイムを短縮する事業に着手しました。
本事業では、漁港での水揚から出荷の過程において水温・塩分濃度センサーを増設し、出荷までの鮮度管理を強化することで魚価の向上とブランド力アップを図ると共に、フォークリフト計量や販売システムの導入により、仕入から販売までの煩雑な漁協業務の効率化とスピードアップを実現し、入札時間による販売機会の損失と魚の鮮度の低下を防ぐことを目指しています。
この事業を通じて、海の環境変化に対応した漁業のあり方を模索し、漁業の担い手や後継者不足による漁業の衰退を回避するとともに、生業としての漁業をDX化して市場競争力を高める努力を漁師・漁協・仲買人が協力して取り組む地域へと変革していきたいと考えています。

事業名:DXによる魚価向上・漁業の担い手確保を通じた地域活性化事業

80秒でわかるいすみのDX化の取り組み

【プロジェクト2】魚の鮮度の見える化

漁港内の魚の鮮度管理の強化と漁協業務の効率化の事業に並行して、鮮度の指標として期待される「K値」をシミュレーションすることにより鮮度を見える化し、消費者が魚の食べ頃を見極めることを可能にすると共に、資源廃棄の軽減を目指した取り組みを推進しています。
この事業では、北海道大学大学院工学研究院の協力を得て同大学のK値に関する知見を活用して「鮮度の見える化」のモデルを策定し、さらに県内・都内の協力会社によりデバイスとソフトウェアの開発を行って、いすみの漁業関係者(漁師・漁協・仲買人)が簡単に鮮度管理ができるツールと仕組みを開発しています。
また本事業では、単に鮮度管理のためのツールや仕組みの開発に留まらず、この取り組み自体を観光資源として活用していきます。おいしい魚だけでなく、なぜおいしいのかという学びや体験も観光資源にすることで、いすみ市への来訪機会の創出と地域の活性に貢献したいと考えています。

プロジェクト名:「産地漁港発」K値予測による鮮度見える化、漁師応援プロジェクト!

【プロジェクト3】漁師たちの勉強会

近代の冷蔵や冷凍の技術の進歩により、水産物の保存期間は大幅に伸びましたが、魚本来のおいしさを少しでも長く楽しむためには、人の手による鮮度保持は非常に有効な手段です。
私たちは、魚種や漁法、水揚げ状態によって、まだ生きている魚に活け締めや血抜きを施し、魚の鮮度の劣化を大幅に遅らせて、出荷時の魚の価値を上げる取り組みに力を入れています。
その技術を上げるため、いすみの漁師たちは定期的に勉強会や研究会を開き、時に外部講師もお招きして魚種による最適な取り扱い方を自主的に勉強しています。ワークショップによる実地訓練だけでなく、座学による講習を受けることも。一般の人には当たり前に見えるかもしれませんが、日々船に乗り魚と対峙している漁師にとって、座学セミナーは決して当たり前の光景ではないのです。
出荷時の魚の鮮度が上がれば、食べられる期間も長くなり、食品ロスも軽減できます。そして魚の価値が上がれば漁師の収入も増え、漁獲制限下でも漁師という仕事を続けることができるでしょう。そのために、当たり前ではない座学にも積極的に参加し、知識と技術の両面から魚の価値向上に努めています。

【プロジェクト4】稚魚の放流事業

いすみ市の協力を仰ぎ、大原高校海洋化学専攻の生徒が育てたヒラメ、イサキの稚魚を夷隅東部漁協遊漁船部会で購入し、放流する取り組みをしています。放流にはいすみ市内の小学校生徒も参加し、簡単な講義等を実施します。
地域活性化として少しでも多くの生徒が海に興味を持ち、漁業に関わる仕事についてくれることを願って取り組んでいます。